昨日、長野の松本から工房に来て下さったカルチベイトウクレレの西野さんです。半年ほど前に工房に見えた時の、「今年は一緒に何かやりましょう」がやっと実現しました。こうして一つ一つのモデルが実際に工房に来て下さったショッププロの目と共同で形になってお引き渡しできる時は職人として一番興奮する瞬間です。
ST360 Type1
soprano middle / 14joint
シトカスプルース・サペリ
このサペリという木は、これまで何本も製作してきて楽器材としてとても優秀だと肌で感じています。アコースティックギターではテイラーやK・ヤイリで昔からよく使われていますがウクレレではあまり馴染みのない木ですよね。昨日西野さんにホンマホとサペリとアフリカンマホを目の前で比較して頂いたんですが職人でもなければ見分けが付かないほど似てます。アフリカンマホは剛直で導管が目立つのでわかるんですがシルキーなホンマホとサペリはそっくりです。音質的にはアフリカンがバっと分かりやすい音の塊が出てくるのに対しサペリとホンマホは上品なキラキラした音。硬さはサペリがシルキーで中庸、ホンマホはガラス質な柔らかさ(ちょっと矛盾してますが)。ここに表板をどうミックスするか、ブリッジプレートをどんな厚みでどんなサイズ、位置で合わせるか、ブレイスの噛み合わせ方をがっちりするのか、はたまた宙ぶらりんにするのかで全体像を作っていきます。ともあれ出発点は素材が最も重要なのは間違いないので器(サイドバック)にサペリを持ってくるってのは僕の中では最近かなり粋なチョイスなんです。3本ともサラッとした弾き味に艶のあるサウンド、十分な音量に仕上がってくれました。
ST381 Type2
concert / 14joint
シトカスプルース・サペリ
※サイドホール加工前の写真です
ある意味、これまで作ってきた中で一番思い入れのあるボディがこのType2です。ご存知の方もみえるかもしれませんがこちらは旧スタイル7からそのまま流用しているボデイ。ホールドバランス、全音域に凹凸なく良く鳴ってくれるとっても楽しいヤツなんです。製作総数300本(アマ時代を含めると400))の中でこのボディを一番作ってきたと思います。ずっと同じじゃなくて色んなことを学ばせてもらったボディで、最初の頃の無邪気な作りからはかなり質も上がったと思います。使う材、細かなパーツ、作り方まで端から端まで神経を行き渡らせて丁寧に作ることが大事なんだとこのボディは教えてくれました。理想的な八の字シェイプ、大きすぎず小さくないボディ容積ゆえにイメージとは違うサウンドになったらそれは作っていく過程のどこかに問題があると思ってそれを一個ずつ洗い出してはリトライの繰り返しでちょっとずつマトモなウクレレが作れるようになってきました。ほんとこのボディにはたくさんのことを勉強させてもらって、このアベレージボディを土台にして一回り小さいモデル、大きいモデルを作り上げていったんです。3タイプの大元が実はこのタイプ2です。
ST392 Type3
concert middle / 14joint
シトカスプルース・サペリ
今回の3本の中で最もリッチなサウンドはこれです。生音でカフェライブなんかしたら最高なんじゃないでしょうか。シトカスプルースの遠達性、サペリの上品なキラキラ感、安定した弾き心地。どれをとっても合格点です。モノトーンストライプの飾りって素朴な気品が漂いますよね。パーツ屋さんに端から白黒モノトーンに組んであるプラ製のものもありますが、うちのモノトーンストライプはメイプルの染め木を合計9本掌で束ねて自作して曲げて嵌め込んだパフリング飾りです。コンマ5ミリの折れやすいメイプルを9本左手に束ねつつタイトボンドで貼り合わせていく作業はははっきり言ってどのモデルよりも大変です。油断すると括れの箇所で変に接触してやり直しになります。でもボディ全部を木で、この手で作り上げるから面白いんです。
ニホンジカヘッド初号機、いざ発進です。
去年夏にテント泊装備18キロを背負って汗だくで登った北アルプス。へとへとになって辿り着いた後立山連峰の主峰「鹿島槍ヶ岳」の稜線を背景に丘に佇むニホンジカをインレイしたヘッドです。この仕様になって初めての出荷が今回の3本となりました。アマチュア時代から16年間ずっとスクエアヘッドでやってきたものを心機一転刷新した昨年。紆余曲折を経て大好きな北アルプスにヒントをもらう山旅に出た昨夏。主役の雄鹿も入ってやっと完成です。たくさんのストーリーが詰まったこの新しいヘッド、みなさんに気に入ってもらえるといいなと心から願っております。
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