木材の仕入れとサペリ
自宅から車で三時間半程のところまで遥々材の仕入れに来ました。どこの材木屋かは内緒であります…。同業にはあまり知られたくないわけで(笑)
材はある時に買っておくしかないので多少遠くても馳せ参じます。この頃は乾燥状態がいまいちの材がデフォルトなので仕入れたらすぐに割ってしばらく桟積みして保管しておきます。
これなんの木かわかりますか?
凄い杢目ですがサペリなんです。ちょっとびっくりなぐらいビッシリと杢が波打ってます。昨今オススメ度高めのマホガニー近似樹種、サペリ。杢入り材となればサペリフェチには尚の事、たまりません。サペリはアフリカの港名が由来の木です。アフリカンマホガニーよりも密度が高め、オセアニア産ホンマホより赤身が強い。工房には今こんな派手な波杢サペリもあれば、見た目はシルキーでリボン杢が爽やかなものもストックにあります。はじめてこのサペリを使ったのが2017年頃でしたがそのときは固めのキンキンした出音になって失敗の連続でした。ホンマホと同じように仕立てようとしていたのがいけなかった。サペリに限った話ではありませんが個体差がかなりあるのでよく材を観察して作戦を練らないと失敗に終わる率が高め…。サペリとの格闘はそれからずっと続き、どうやって作ればマホみたいな心地良い鳴り方に仕上がるのかを追求し続けたお陰でけっこう鍛えられたようにも感じます。よく木を観察して作戦を練る癖がこれで身についたんだと思うわけで。同じ塊のフリッチ材でも数ミリ取る場所が違うだけで性格が違うなんてことがよくあります。ウクレレ界隈ではコアだマホだマンゴーだ、そのあたりが使用材としてよく認知されてますがオールサペリボディはほとんど見かけません。そこを突破していくのって結構な時間と経験がいるであろうことは何となく想像していましたが案の定、けっこう苦しませて頂きました(笑)…けれどもほんと今年あたりからやっと高い確率でいい太鼓ができるようになりました。
今年2月に工房までオーダーに来て下さったときの写真です。今月はポエポエさんに二本、オールサペリのタイプ1ソプラノとタイプ3コンサートをST仕様で製作中です。来月完成予定、こちらもご期待ください。色々と紆余曲折を経て結果的にコアにもない、マホにもないサペリにしかないシルキーなんだけどファットさもあるサウンド作りができるようになったと思います。
そのオールサペリボディでのオーダーを今年春先に頂いていたものが仕上がって先日無事にお引き渡しを工房にて完了しました。とても喜んで下さってホッとしました。以下、オーナー様から頂いたレビューです。
"坂井さんのウクレレらしい甘い高音と長いサスティーンに加えて、サペリの包み込まれ癒されるような心地よい響きがコアのカラッとした元気な響きと違って印象的で面白く、3本目を迎えるにあたり狙い通りの音になってとても良かったです。また演奏のしやすさも素晴らしく、例えばハンマリング、プリングがとてもスムーズに行えてしっかり鳴ることなど、無意識に指が力んでしまうことなく弾けるので長時間弾いていても疲れないのが驚きでした。Type2、375mmというサイズ感もドンピシャでソプラノとコンサートの良いとこ取りができていてとても気に入っています。あと付属のケースも見た目から想像していたよりもずっと軽く持ち運びが楽でこれは良いなと思いました。オーダーウクレレを作るという長年の夢を、一番お願いしたかった職人さんに自分の希望を妥協なく詰め込んでお願いし、自分の予想や期待を遥かに上回るのウクレレを製作していただけて本当に幸せで嬉しい限りです。工房に直接お伺いしてご相談できたことやウクレレが出来上がっていく過程のワクワク感なども含めて一生の思い出になる経験になりました。本当にありがとうございました"
オールサペリモデル
オーナーさんがご自身でPhotoshopを使ってデザインしたものをそのままお作りしたウクレレ。指板にポジションマークを一切入れない仕様はギターライクでかっこいいですね。個人的にもヘッドから指板まで装飾なしってのが好きです。音と演奏に集中できる仕様とでも言いますか。出音はかなりボリューミーでオールサペリだと知らなければたぶん皆んなマホガニーの類いかと勘違いするほど。サペリはほんと良いです。まあまあ作り方は難儀しますが。
静岡で活躍中のウクレレシンガー、メイさん
沼津、三島エリアはウクレレがとても盛んな地域ということを今年4月に直接三島まで行って体感して来たわけですがその発信源となっているのが三島のウクレレDARUMAさんです。そこでお会いした写真のメイさんもこのエリアを中心に毎年何本もライブを行なってます。土岐麻子、ジュディマリのYUKI、吉澤佳代子、ヨルシカなどをコピー。オリジナルも。メイさんが手にしているのは今年から愛用を始めたオールサペリのコンサートで愛称は「鹿レレ」です。スタンドFMで毎朝放送してますのでぜひ一度、ご視聴ください。9.11放送「ひとり朝の会〜若者の全て/フジファブリック」⇩
https://stand.fm/episodes/66e0c9858661c1793391ea7c
以下、メイさんより頂いたサペリコンサート(ローG)のレビューです。
”とにかく音がいい…!今までウクレレの材質を気にしたことがありませんでしたが初めて弾いた時は衝撃でした。こんなにも違うものかと。柔らかいけど芯があって深みのある音色で弾いているだけで幸せいっぱい…そんな音色です”
メイさんレビュー、ありがとうございました。
ライブ予定
10/13(SUN) しぞ〜かukulele meeting at みしま未来研究所
https://www.instagram.com/shizoka_ukulele_jam/?hl=ja
[出演]
U4,さとしん、メイ、camera calme、FREEBYRD、LINO、もりもり、TEKKA、ユージンズ、ぐれい丼、かっぴ〜with JUN、こいけたけし、麻古、KK BROS
TOMOKI MODEL 2
TOMOKI MODEL
初号機お引き渡し時の記念撮影
ハワイでの収録動画
現在製作中のTOMOKIモデル二号機です。写真はロゼッタ加工後にサウンドホールをくり抜いたところです。口輪飾りは一号機同様のWM、内側にマッカーサーエボニーを嵌め込んだ仕様。製作手順はまず一番内側のマッカーサーを入れる。次にブックマッチさせたスタビライズドバールを嵌め込む。さらにアバロンを二本嵌め込んで最後にサウンドホールをくり抜く。もうこの作業だけで午前中いっぱいかかります。その戦いを終えた記念写真がこれです。
TOMOKIモデルの一号機#290のサウンドホールをくり抜いたのが2022.10.27だったのでほぼ2年後ということになります。二号機のシリアルNoは#360で初号機から70本後になりました。この2年間の間でも細々としたマイナーチェンジはいくつもありました。テナーは一回りサイズアップしてボリューム感が増してます。ブレイスパターンもいくつか増えてスプルース、シダーなど材ごとに配置を変えるようになりました。
今年頭に友紀モデル一号機のフルメンテをした時にこの一本だけで使い続ける負荷は相当なものと感じていたので2本体制になるのは実に理想的です。やはりプロの現場で使われていく楽器の負荷は趣味レベルとは全く次元が違うというのを改めて実感。さらに求められる音の理想像も市場とは少し違っていて「音の塊感」を重視。つまり密度の濃い音をどうやって出すかを求められる。となるとサイドバックに高密度の広葉樹を使ってサウンドの芯を太くした上でブレイス自体も剛性を高めに持っていった作り方にする…なんて言う方向にしてみました。名渡山さんも仰っていたけど生音はあまり関係ないんです。プロの現場ではいかにアンプから塊感のある音が出るかが重要らしい。
サイドバックにはブビンガ。別名アフリカンローズ。この木、実はとても日本人に馴染み深い存在の木なんです。盆踊りや地域の祭りで使われてる大小様々な和太鼓の胴としてずっと使われてます。ドンドコドンと鳴るあのぶっとい音。我々日本人の年中行事の中でずっと耳馴染んできた音風景は実はこのブビンガ胴から放たれている音だったわけです。
その和の胴にヨーロッパのスプルースを張る。まさに和洋折衷音。なんともストーリーのあるテナーになりそうです。いずれにせよ、安心してライブで使ってもらえるテナーを作らねば。これは最高に面白くてやりがいのある仕事だと感じます。
Cristopher Davis Shannon Model
そしてこちらは今塗装終盤戦に入った360、TYPE1。木工完了時の写真です。シダーマホの軽快な王道ソプラノミドルモデルで英国のアーティスト、クリストファー・デイビス・シャノンさんからのオーダーウクレレ。インストラクターとしても海外でとても人気がある方なのでYoutube見たことあるっていう人も多いのではないかと思います。
ジョージハリソンの曲を題材に親指3連の弾き方をレッスン
指板インレイにはシャノンさんのご依頼で彼のトレードマークである星と三日月を入れました。このインレイも勿論、小川インレイクラフトさんの仕事になります。そしてこのウクレレが海を渡って無事にロンドンに届くかが今僕の一番の関心事だったりもします。英国では毎年いろんなウクレレフェスが開催されているわけですがいつかそれを直に見に行きたいです。ま、ともかくもあれこれと妄想しつつ今は仕上げ磨き中です。
英国のウクレレフェス一覧 ⇩
https://www.ukulelefestivalofgreatbritain.com/
My New Gear
プライベートで今年密かに製作し続けてきたマイおニューソプラノが完成。初のダブルキャッツアイ指板がかっこいい。音は…当然ですがめっちゃ良いです。オーセンティック345ミリソプラノ、オセアニア産のホンマホボディ。ソプラノの肝は軽さと和音の均整感だと強く思います。弾きやすさの肝はやはりナット溝とサドル高のバランス。これが店行きだとどうしても誰が弾いてもビビらないセッティングが求められてしまうので弾きやすさよりもそっちが優先されてしまう。本音としてはビビるかどうかは弾き手が上手な人であればウクレレに合わせてくれるのでもっと攻めた弦高設定にできるのでいつも歯痒さがあります。しかしマイウクレレとなればそんな世間体なんぞお構いなしで攻めまくりです。ほんと弾きやすくてちょうどいいサウンドバランスのソプラノに仕上がりました。実演動画をインスタにアップしましたのでよかったらご覧ください。中段でも木材の扱いについて少々書きましたがこのオセアニアンマホでも同様のことが言えます。中米産または南米北部域産ホンマホであろうがオセアニア産であろうがサペリだろうがアフリカンマホだろうが基本的にやるべきことは同じで「よく材を見てどこを使ったらいいかを見極める」ことさえ気をつければいいウクレレに仕立てられるんです。このオセアニアマホの音なんてこれまで作ってきたマホガニー系ウクレレの中でもトップクラスの綺麗なサウンドになりました。ショップオーダーの打ち合わせをしていていつも感じるんですが、日本人はブランド志向が強いので中米のホンジュラスこそ至高だみたいな偏った楽器の見方をするきらいがいまだに根強いと思います。大事なのは弾いていて気持ちいいことなんじゃないかと僕は思うんですが皆さんは何を求めて楽器を買うんでしょうか。ではまた。