最強寒波到来

美濃地方も寒波による大雪に見舞われました
と言ってもこんなものですが

工房にも数センチ程度の積雪

たまに降るぐらいだから良いんですよね、きっと。いつもと違った白銀の街を眺めると大人でもワクワクします。

今週は木工作業終盤です。
ネック製作

年始に色々とデザインリニューアルのための準備をしていました。ヘッドシェイプもその一つ。この写真だと分かりにくいですね。何が変わったか分かりますか?
…まず一回り小さくなりました。ヘッドの長さがこれまで137mmだったのを125mmに。もう一点はアウトラインの丸みをより強調した柔らかいデザインに変えました。これまでは上部の鹿島槍ヶ岳のシルエットも鋭角だったと思います。当初はデザイン上際立たせたかったのでそうしましたが実際に鹿島槍を歩いた時に感じた印象に近づけました。頂上に続くなだらかでとてつもなく大きな稜線で、山体そのものも大きいんです。それを形にしました。テンプレートを当ててトリマーで一気に形に仕上げていきます。

小川さんが切ってくれた日本鹿ロゴ。その鹿が立つ丘のライン、これは私が毎回切り足しています。このラインがあって初めてまさにそこに鹿が立ってこっちを見つめている様子が表現されます。この日本鹿のシルエットは実際に北アルプスを歩いていた時に撮影した写真を元にアウトラインを小川さんに切って頂いてます。鹿の角の幅がおよそ1ミリ、場所によっては0.9mm。これを毎回全く同じシルエットで送ってくるあたりに小川さんの変態的な仕事の精度の高さを感じます。今流行りのNC(マシンカット)ではなくハンドカット、つまりジュエルソーによる手切り。しかもヤスリを一切入れていないとのこと。これまで何十頭もの鹿を送ってくれていますが全て寸分違わぬ同じシルエット。とんでもない天才だと思います。ハンドカットにしか出せない「生きた線」を実物を前にすれば誰もが感じられるはずです。芸術的な要素をヘッドに纏う。尊敬する方と一緒にウクレレを作っていけることに感謝です。

最近長女にイラスト用の白ボールペンがあることを教えてもらいました。インレイキャビティをドレメルで掘るときに重宝しています。これまでは転写したシートを当てがって掘っていましたがこれなら一目瞭然。現物を置いて0.5mmのシャーペンでアウトラインを入れ、その内側をイラストペンで塗りつぶす。ドレメルベースの合間から覗きつつ掘る際に白くはっきり見えるので作業が楽になりました。

この写真、テンプレートと指板が逆さまですね 笑

フレット溝を入れました。「溝は何で切ってますか」たまに聞かれるんですがうちはフレットソーで手切りしてい…ません。全てプロクソンの卓上丸鋸で切ってます。指板一枚につき5分程度で19フレット切れます。専用のジグを自作して、木材をそれに乗せてスライドさせるだけです。溝の深さは少し深めの2ミリです。これは最終的には1.8mm前後になります。どういうことかと言うと、次のような段取りだからです。
- 指板をネックに貼る
- ネック整形した後のネックの状態をみて指板天面をフラットに研磨
- 塗装後にもう一度指板天面をフラットに研磨
- フレットを打つ
- バフ磨き
この段取りです。なんでこうするのか。いくらネック材を最低でも数年寝かせたものを使っていたとしてもザクザク削っていけば多少動きます。さらに塗装期間を最低一週間見積もったとしてその間にも多少ネックが動きます。なので最後にフラット研磨作業をした上でフレットを打ちます。仕上がりから逆算してなるべくフラットな状態に持っていけるような段取りを組んでます。

ウクレレのデザインについてはヘッドも含めてこれまでほんと色々と試行錯誤を繰り返してきました。日本人製作家を見回すと色んな形、ほんとに様々なヘッドがあります。今回のヘッドデザインはおそらくこれが最終形状だと思えるものにようやくなりました。必要最小限の大きさに丸みを帯びたアウトライン。派手すぎずシック。僕のウクレレは部分部分で派手に見せるタイプのデザインではきっとないんだと思う。ヘッド、指板、ボディともに突出した特徴はない地味なデザインなんだけど引きで俯瞰して全体を見た時にシックにまとまっている…そんな存在のものだと思う。個人的にはウクレレは道具であって芸術品ではないと考えてます。手にとって弾いた時に「あ、これだ」と思える感触を感じてもらえて初めて道具として使えるものになる。地味でいいんです。長く使ってもらえれば。そもそものデザインの前提として奏者が主役でその背後のレイヤーにウクレレの存在がある。奏者がそれを抱えたときにそっと花を添えるようなシックな色合いでありたいと考えてます。決して前にしゃしゃり出るようなものではなくてあくまで主役は奏者。

カルチベイトウクレレさんオーダーのコンサート
世間(世界)は狭い?

今週もあっという間に週末でした。来週は塗装の一週間になります。このところ海外からのオーダー問い合わせが続いています。そのうちの何人かはメールの文面から分かったんですが、昨年からソプラノロングを使って頂いているクリスのオンラインレッスンの生徒さんです。本当に有難い。人生どこでどんな風に繋がっていくかわからないものですね。こんな岐阜の田舎の掘立小屋でウクレレ作ってる人間のことを世界の誰かが見てくれているなんて不思議な心地です。クリスもオータサンの大ファンでローG使いです。彼はプロのベーシストで音楽理論から実践教育まで多岐にわたって活動しています。来週15日にイングランド南部の楽器店でAncestor'sソプラノロングを使って初めてのライブをすると教えてくれました。なんとそのライブ会場となる楽器店の主人というのが…

先週の記事でアップしたこの写真の男性の店だそうです。NAMMのキワヤさんブースでAncestor’s テナーの動画撮影をしていたこの方。当然この時点で彼は来週自分の店でライブ予定のクリスがAncestor’sソプラノロングを使う予定であることは知りません。なんと世界は狭いものか。LAのアナハイムで開催されている展示会なのでてっきりアメリカの楽器関係者かと思っていましたがまさかのイギリスの楽器店の方だったとは。Southern Ukulele Store 、イギリス海峡に面したボーンマスという町にある楽器店のオーナーのAlexさん。クリスとは勿論お知り合いだそうです。なんというか、ウクレレ界隈は日本でもそうですが世界においても意外と知った仲同士が多いのかもしれないと思いました。
そのNAMM2025に出展したこのテナー、キワヤ商会さんで販売。なんですがこちらにもちょっと驚いたことがありました。アナハイムでの出品後すぐに帰国して上野で販売されているのかと思っていたら知人からこんな動画が上がってるよという知らせが。ハワイの有名なウクレレ専門店が運営するチャンネルにそのテナーが登場。なぜハワイに…と思いましたがおそらくNAMMに参加して今ハワイに行っているTOMOKIさんが持ち込んでくれたんでしょう。TOMOKIさん帰国後にキワヤさんに行く流れなんだと思います。多分。にしても、いつも見てるチャンネルに自分のウクレレが登場する日がくるとは。ほんと人生どこでどう繋がっていくか、面白いもんですね。感謝。
追記
2/10 このテナーはハワイの方にご購入頂いたとの報告がありました。感謝です!またいつかNAMM SHOWに出展のチャンスがあればぜひチャレンジしたいです。とても良い経験となりました。